堂島ロールの会社の商標問題について

asahi.comに「『モンシュシュ』の標章ダメ 堂島ロールの販売元敗訴」という記事が出てました。事件の経緯としては以下のような感じです。堂島ロールは有名だと思いますが、それを作っているのは株式会社モンシュシュという会社です(2007年に商号変更)。同社はMon Chouchouという商標を自社の菓子類に使用していました。一方、神戸にあるゴンチヤロフ製菓という会社はずっと前から「菓子、パン」を指定商品とする「Mon Chouchou/モンシュシュ」という商標権(第1474596号)を所有しており、モンシュシュ社を商標権侵害で訴え、モンシュシュ社には差止請求と損害賠償3500万円の支払いが命じられてしまったという話です。

記事から判断する限り、明らかな商標権侵害事件であり、モンシュシュ社が何を根拠に争っていたのか理解に苦しみます。何か特殊事情があるのかもしれませんが、まだ、判決文が裁判所サイトにアップされていないので今のところはわかりません。

この事件を例にとって、この記事を読んだ人が気になりそうな点を解説します。いずれも商標については基本的なポイントです。

1)商号と商標の関係

商号(会社名)と商標は異なる概念です。登録商標と同一・類似の商号を登記するだけ、および、商号を商号として使う分には商標権を侵害することはありません(周知商標については別途会社法や不正競争防止法上の問題があり得ます)。要は、会社名での表札を出したり、お菓子の包みに貼った小さなラベルに「製造元: 株式会社モンシェシェ」と書くことで、他者の商標権を侵害することはありません。

しかし、商号を商標的に使用すると、つまり、商品や役務(サービス)の標識として使用すると、商号登記してようがなかろうが他者の商標権を侵害し得ます。モンシュシュ社(堂島ロール)のWebサイトを見るとロゴデザインされたMon Chouchouの文字を大きく店のガラスに表示したりしていますので、これは商標的使用であると判断されてもしょうがないと思います。

なお、記事中にも「モ社の社名は訴訟の争点になっておらず、今後も使える」と書いてあります。要はモンシュシュという社名を付けること自体が問題なのではなく(この機会に変えた方がよいとは思いますが)、モンシュシュという名前の商標的使用が問題であるということです。

2)モンシュシュ社の登録商標との関係

記事中には全然触れられていないのですが、実は、モンシュシュ社も「モンシュシュ」の商標権(第4939769号)を有しています(指定役務は「ケーキ又は菓子を主とする飲食物の提供及びこれらに関する情報の提供」)。これと、ゴンチヤロフ製菓社の商標権の関係はどうなのでしょうか?

まず、基本的なポイントとして商標権は常に商品・役務(サービス)とのペアで考えられという点があります。商品・役務が非類似ならば商標権の効力は及びません。

そして、「飲食物の提供」という役務はレストランや喫茶店で食品を客に出してその場で食べてもらうサービスのことを指します(「提供」とは食品を持ち帰り用に販売することを指すのではありません)。要は、モンシュシュ社の商標権はケーキを出す喫茶店等の営業において「モンシュシュ」の名称を使うことができるという権利であって、「モンシュシュ」という名称のケーキをケーキ屋で販売できるという権利ではありません(その権利はゴンチヤロフ製菓社が有しています)。モンシュシュ社のWebサイトを見る限り、「Mon Chouchou」という名称を使ってケーキの一般への販売を行なっているようなので、ゴンチヤロフ製菓社の商標権を侵害しているように思われます。

商標法における「商品」とは市場で自由に流通するものを指します。レストランや喫茶店でその場で食べることを目的に提供される食べ物・飲み物は商標法上の「商品」ではないのです。食品の販売業を行ないたいのであれば「飲食物の提供」を指定役務とするのではなく、具体的な食品名を指定商品とした商標登録出願を行なう必要があります(そして、このケースでは1977年にゴンチヤロフ製菓が権利を押さえているのでモンシュシュ社が今から出願しても意味がありません)。

いずれにせよ、社名変更やブランド戦略を計画する時には(特に、造語ではなくて「あり物」の名前を使う場合は)既存登録商標のチェックくらいしておきましょうということです(特許電子図書館(IPDL)で無料でチェックできるのですから)。

なお、今後、判決文が裁判所のサイトにアップされた際には追記する可能性があります。

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