特許法の新規性喪失の例外規定についてまとめてみました

前回の記事『出願前に公表・販売してしまった発明にも特許化の道が開けた件』はそれなりに反響を呼んだようです(発明家にとって影響が大きい改正と思うのですがイマイチ周知されていないのでしょうか?)

この機会に「新規性喪失の例外」(特許法30条)について簡単にまとめてみました。ちょっとややこしい部分ではあります。なお、以下の説明は4/1施行の改正前も改正後も共通です。改正前後での違いは、救済(新規性喪失の例外)の対象となる行為が改正前は比較的狭かったのが、改正後はきわめて広くなるという点にあります。

1.普通のパターン

スライド1

発明者(あるいは、発明者から「特許を受ける権利」を契約により譲渡された者(典型的ケースは職務発明の規定により社員から会社に「特許を受ける権利」が自動的に移転された場合))自身が公表(販売も含む)した場合、公表日から6ヶ月以内に出願すれば、その公表を理由として新規性・進歩性を否定されることはありません(もちろん、他の理由により拒絶されることはあり得ます)。なお、この救済策を受けるためには所定の手続きが必要ですので個人で出願等される場合はご注意ください。

2.「特許を受ける権利」が途中で移転しているパターン

スライド2

「特許を受ける権利」が契約により適切に譲渡されているのであれば、公表した人と出願する人が違っていてもパターン1と同じです。たとえば、社員が個人で発明を公開、その後、会社の規定により「特許を受ける権利」が会社に移転して、会社名義で出願するようなケースです(職務発明の内容を出願前に個人として公開したことで会社に怒られるかもしれませんが、それは別論)。

3.冒認出願(パクリ)のパターン

スライド3

「冒認出願」とは「特許を受ける権利」を持っていない人による出願、要するに人のアイデアを勝手にパクった出願を意味する専門用語です。発明者であるAさんの公表の内容を見たBさんが勝手にAさんより先に出願してしまうと、Bさんの出願が冒認であることが立証されない限り、Aさんの出願はBさんを先願(拡大先願)として拒絶されてしまいます。冒認であることの立証は、同じ会社の同じ部門で共同研究していたうちの一人が退職して勝手に出願等々であればまだしも、Bさんが自分で独自に考えましたと主張するとそれに反証するのはかなり困難と言えるでしょう。Bさんの冒認が立証できないと、以下のパターン4と同じ扱いになります。なお、Bさんの出願は冒認であろうとなかろうとAさんの公表を理由として新規性欠如により拒絶されます。

万一、Bさんの発明が特許化されてしまった後でも、冒認を証明できればAさんは権利を取り戻せますが細かくなるので説明は省略します。

4.独立して発明した第三者が先に出願してしまったパターン

スライド4

冒認(パクリ)ではなく、第三者が偶然同じ発明をして先に出願してしまったパターンです(シンクロニシティではないですが、同じようなアイデアを同時期に複数の人が思いつくケースはないとは言えません)、この場合は、結論から言うと、AさんもBさんも特許を受けることはできません。(説明は次の段落に書きますが、結構ややこしいので読み飛ばしてしまってもかまいません)。

まず、Bさんの出願はAさんの公表を理由として新規性欠如により拒絶されます。しかし、通常は拒絶される前に出願日から1.5年後に出願公開が行われます。出願公開がされると特許法29条の2の拡大先願の地位が生じます。拡大先願の地位は出願が拒絶されても消えません(一方、39条の先願の地位は消えます)ので、Aさんの出願はBさんの出願を拡大先願として29条の2の規定により拒絶されます。結果として、AさんもBさんも共倒れになります。なお、29条の2は先願と後願の発明者が同一の場合には適用されませんので、パターン3で冒認を証明できた場合には、Bさんの出願は冒認出願を理由として拒絶され、Aさんの出願は39条でも29条の2でもBさんの出願には影響されないことになります(もちろん、別の理由で拒絶されることはあり得ます)


と、いろいろとややこしいことを書いてきましたがポイントは以下の3点です

  • 新規性喪失の例外は出願日の遡及規定ではない
  • 新規性喪失の例外規定はあくまでも非常手段(公表前に出願が原則)
  • 新規性喪失の例外規定を使う場合でも可及的速やかに出願することが望ましい

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特許法の新規性喪失の例外規定についてまとめてみました への1件のフィードバック

  1. 竹内延夫 のコメント:

    大変分かりやすい説明をありがとうございます。
    2.「特許を受ける権利」が途中で移転しているパターン
    で適用されるのは、出願時に「特許を受ける権利」はBさんに移っているので、適用されるのは、30条1項の「意に反して」でしょうか?それとも30条2項の「権利を有する者の行為に起因して」でしょうか?
    それにより、3項の証明する書面の提出の必要性が変わってきます。

    よろしくお願いいたします。

    竹内延夫

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