著作権はなぜ強力なのか:その物権的特性

前回のエントリーがよい例になると思うので、著作権という権利の特性についてもう少し説明します。

前回述べたように著作権は創作行為により自動的に発生します。ソフトウェア利用許諾等に「本ソフトウェアは著作権法で保護されています」と書いてあることがありますが、これは確認規定であって、このような契約や宣言がなくても、著作権は自動的に発生します。根拠は著作権法の

第二十一条 著作者は、その著作物を複製する権利を専有する。

等々の規定です(厳密に言うと、著作権という権利は法律上はなく、複製権、上演権、公衆送信権等々、利用行為ごとに細かく権利(支分権)が定められています)。

そして、これも前回述べたように、契約によって他人に複製等を許諾することはできますが、契約も何もないデフォの状態では他人は複製等できません(私的使用目的複製等、法律で例外とされているケースを除きます)。

以前、JASRACの警告にもかかわらず、所定の利用料金を支払わずに自分の飲食店でハーモニカの演奏を続けていた店主が警察に逮捕されてしまった事件がありました。この店主にしてみれば自分はJASRACと契約した覚えはないのに何で利用料払わないといけないんだ、何で警察につかまるんだと思ったかもしれませんが、JASRACと契約していないということは上演権の許諾がないので即、著作権侵害になります。そして、故意の著作権侵害には刑事罰が適用されますので、警告の後も演奏を続けていれば警察に逮捕されてしまってもしょうがないと言えます(借金をなかなか返さない(これは完全に民事)という話とは違います)。

なお、小規模な飲食店を警察の力を使って制裁するのは法律的には正しくても社会通念的にどうなのよとか、小規模飲食店はJASRAC利用料減免してもいいいんじゃないかとという話がありますが別論です。また、非営利・無料・ノーギャラの上演は許諾なくできることが別途著38条に定められています。飲食店で客に向けて演奏するのは非営利とは呼べませんのでこの例外規定は適用されません。

一般に、契約行為がなくてもあらゆる人に対して効力を持つ権利のことを物権と言います(典型例は所有権)。著作権は厳密に言えば物権ではないですが「物権的」であるとされています。

ついでに書いておくと、著作隣接権も著作権同様に物権的です。たとえば、レコード制作者は音を固定することで自動的に著作隣接権(通称、原盤権)を得られます。これにより、CDを複製する場合には、著作権者(作詞家・作曲家)だけではなく、原盤権者たるレコード会社(厳密に言えば、さらに実演家の著作隣接権を持っている人)の許諾が必要になります。

出版社に対して著作隣接権を付与せよという話が議論されていますが、これは、出版社にこのような物権的権利を付与せよということを意味します。書籍については、今までは、作家が著作権を持ち、それに基づいた契約によって出版社に出版権を許諾するという流れだったのが、出版社に著作隣接権が付与されるような改正が行なわれると、契約がなくても出版社が著作権と対抗できる強力な権利を自動的に獲得できるようになるわけです(出版社がこのような権利を獲得できるよう必死に法改正を目指しているのもうなずけます)。

物権はきわめて強力な権利なので経済的にも社会的に影響が大きいです。出版社の権利を議論する際には、このような物権的権利の特性を十分に考慮する必要があります。(出版社の権利に関する話はまた後日)。

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