「出版権」とは何なのか?

電子書籍に関して話題になることが多い「出版権」という権利について基本的なことを書いてみます。

そもそも、出版権とは「出版に関する権利」というような緩い定義の言葉ではありません。日本の著作権法において明確に定められた権利です

79条1項
第21条に規定する権利を有する者(以下この章において「複製権者」という。)は、その著作物を文書又は図画として出版することを引き受ける者に対し、出版権を設定することができる。

80条1項
出版権者は、設定行為で定めるところにより、頒布の目的をもつて、その出版権の目的である著作物を原作のまま印刷その他の機械的又は化学的方法により文書又は図画として複製する権利を専有する。

要するに出版権とは図書・図画出版のための複製権の独占的利用許諾です。単なる契約に基づくライセンス許諾ではないので、出版権者は他者の無許諾出版に対する差止め請求もできます。また、出版社に出版権が設定されていれば複製権者(多くの場合、著作者)自身も出版行為を行なうことはできません。

なお、音楽業界において、楽曲の著作権のことを通称、「出版権」と読んだりすることがあるようですが(音楽出版社からの連想?)著作権法上の出版権とは関係ありません。また、出版社の編集作業により生じる権利として「版面権」を制定しようというよう話がありますが、これまた別の話です(日本の現行著作権法には版面権の概念はありません、設けた方がよいのではないかという意見を言っている人がいるだけです。この話については別途)。

通常は、著者が出版社と契約を結ぶ時には出版社に対して出版権の設定が行なわれると思います。手元にある私と某社の契約書でもそうなっています。出版権の存続期間を3年として、特に異議がなければ1年ごとに自動延長という契約になっています。たぶん、このような規定が一般的ではないかと思いますが、出版の分野や出版社によっては正式な契約書を取り交わしていないケースも多いのかもしれません(その場合は、一般に出版社側にとって不利になります)。

電子書籍に関する重要な論点として、80条1項の「印刷その他の機械的又は化学的方法により文書又は図画として複製する」という部分が電子書籍にも適用されるかという点があります。

判例があるわけではないですが、学説的には、少なくともメディアや端末への複製を伴う電子出版については出版権に含まれるというのが多数派のようです。たとえば、

『著作権法入門』(島並他)p224: 「電子出版も本条[80条]の対象に含めるべきであるとの見解が有力である」

『著作権法』(中山)p335: 「それ[立法当時の考え方]によれば、CD-ROM等の電子出版は出版権に含まれないことになる。しかし現在においてそのような解釈は時代錯誤的であり、本来であれば法改正により対処すべきかもしれないが、解釈としてもこれらを含めることは可能であろう。今日では電子出版と紙による出版を区別する合理的理由はない。」

『著作権法概説』(田村)p489: 「出版権が設定された書籍の文章をCD-ROMに複製する行為も、書籍の需要を満足してしまうものに変わりはなく、出版権の範囲に含まれるものと解すべきであろう。」

しかし、たとえばアゴラブックスなどのようにWebブラウザーベースの「電子書籍」(電子書籍と呼ぶべきかどうかは別として)においては、出版権の効力は及ばない説が濃厚です(この場合に関係してくるのは自動公衆送信権)。同様に、Googleブック検索が問題になった場合にも出版社は原則的にはGoogleに対して権利を主張できないとしていました(もちろん、意見表明はできますが。)

なお、絶版本をダウンロード販売することに関しては、絶版の場合(要するに、出版権者が継続して出版する義務を履行しなかった場合)には、著作権者(複製権者)が出版権を消滅させることができますので、旧出版社の権利が及ぶことはないと思われます。ただし、旧出版社側が絶版ではなく単なる在庫切れであると主張したりするとちょっと面倒なことになる可能性はあります。追加: あと挿絵や表紙絵等の著作権の問題もありますね。これについては契約次第となりますが、当該著作物を使わなければ基本的に問題はないと思われます。

81条
出版権者は、その出版権の目的である著作物につき次に掲げる義務を負う。ただし、設定行為に別段の定めがある場合は、この限りでない。
1 複製権者からその著作物を複製するために必要な原稿その他の原品又はこれに相当する物の引渡しを受けた日から六月以内に当該著作物を出版する義務
2 当該著作物を慣行に従い継続して出版する義務

84条1項
出版権者が第81条第1号の義務に違反したときは、複製権者は、出版権者に通知してその出版権を消滅させることができる。

著作隣接権がからむ音楽の場合よりはまだすっきりはしているのですが、このあたりもテクノロジーの進化に合わせた法整備が必要と思われる領域ではあります。

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