ぼくがかんがえたすうじのとれるちざいドラマ(「弁理士の日」企画記事)

ドクガクさん主催の弁理士の日企画のブログ記事です(1日期限徒過しましたw)。

今年のお題は「知財がテーマのコンテンツ」です。そう言われると、やはり日テレ系のドラマ「それってパクリじゃないですか?」を思い浮かべますよね。このドラマについては、「観て出し」状態で、Yahoo!ニュースにほぼリアルタイムで全回の感想・解説記事を寄稿してきました(第1回第2回第3回第4回第5回第6回第7回第8回第9回第10回)。

最初にこのドラマの話を聞いたときに「”知財”(しかも企業知財部)という地味なテーマでTVドラマとして成立するのだろうか?」と思ってしまいました。全回見終わってみると、エンタメ性と法律的な正確性のバランスをいい感じで取ることに成功していたと個人的には思います。安易に恋愛ドラマにしなかった点も好感を持ちました。とは言え、やはり視聴率は厳しかったようで史上最低レベルの数字になってしまったようです。ぶっちゃけこのテーマがTVドラマ化されることはもうないのではと思います。

弁護士ドラマであれば、法廷で人の欲と情がぶつかり、もし負ければ刑務所行き、と否が応でも盛り上がる設定が作れますが、弁理士の仕事は、基本は特許庁とのやり取りや調整作業なのでカタルシスのあるドラマ設定を作ることが困難でしょう。

特に、このドラマの作りでは、一般視聴者が特許や商標登録の重要性を共有することは困難だったと思います。「何か登場人物が特許ガーとか商標ガーとか騒いでいて大事な話らしいけど..」というレベルの印象になってしまったのではないでしょうか?

ここはある程度非現実的になってもエグい演出で視聴者に明確に印象づけておくべきだったのではないでしょうか?

たとえば、口約束を信用して自社技術の特許出願をしていなかったために大企業に技術をパクられて祖父の代から続いていた工場を倒産させてしまったおっさんとかを初回に登場させると、視聴者にも「特許を軽視するとどえらいことになるんだなあ」と印象づけられたのではないかと思います。

第1回で、田辺誠一(ライバル会社の知財部弁理士)が(冒認で得た)特許のライセンス料を3%と指定してきて、ともさかりえ(主人公会社の特許事務所弁理士)が、「そんな法外な!」とびっくりするシーンがあります。確かに、ボトルの特許権でドリンク価格の3%は法外ですが観てる人は全然イメージわかないですよね。たとえば、その前に、主人公会社で原価担当してるおっさんが苦労に苦労を重ねて原価3%カットに成功したみたいなエピソードがあると、特許ライセンス3%の法外さが伝わったのではと思います。

第4回の商標の勝手出願の回(これって視聴率が一番低い回だったと思います)では、ネットミームの勝手出願による炎上描写があまりにもあっさりしていて、多くの視聴者は意味不明だったのではと思います。「ゆっくり茶番劇」騒ぎは知財業界および一部のネット界隈では重大事件ですが、一般消費者のほとんどは知らないので炎上と言われてもイメージわかないと思います。不買運動とか抗議デモとかの描写があるべきだったと思いましたが、スポンサーがサントリーなので、飲料メーカーへの炎上の描写は控えめにしたかったのかもしれません。

一般的に言えることですが、一般向けの知財コンテンツを作る場合には、知財業界の外部の人というものはびっくりするほど知財の知識がなく、また、興味もないとということを前提にすべきと考えます。以前、某テレビ局のインタビューがあって、かなりかみ砕いて説明したつもりでしたが、インタビューアーの最後の質問が「特許と商標はどう違うんですか?」だったので「あーそこから説明しなきゃいかんかったのか」と思ったことがありました。

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【実務者向け】特許情報プラットフォームで「方式未完」状態が長く続いている商標登録出願について

特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)で、商標登録出願を検索すると「方式未完」と表示されるものがあります。言うまでもなく、方式審査が未完了な出願であり、典型的には出願手数料が未納だと表示されます。手数料未納だと速やかに補正指令が出ますが、補正指令が出ずにずっと「方式未完」の状態が続いているものがあります。

パリ条約優先権を主張して優先権証明書提出待ちになるとこうなるんだろうなと推測しましたが、念のために、このようになるパターンとして他に何があり得るのか特許庁に聞いてみました。第一に、予想どおり優先権証明書待ち、第二に9条(博覧会出品時に出願日が繰り上がる特例)の証明書待ち(あまりないパターンだと思いますが)で、他には想定し難いとのことです。

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【実務者向け】特許査定後の分割出願について

知財高裁のウェブサイトで最近の判決文を見ていたら「特許分割出願却下処分取消請求事件」というタイトルの判決が目に止まりました。

特許査定後の分割出願(特許法44条1項2号)の解釈に関する訴訟です。

44条 特許出願人は、次に掲げる場合に限り、二以上の発明を包含する特許出願の一部を一又は二以上の新たな特許出願とすることができる。

二 特許をすべき旨の査定(略)の謄本の送達があつた日から三十日以内にするとき。

原告は、自分の特許出願の特許査定の日から30日以内に分割出願をしたのですが、それより先に特許料を納付して特許の設定登録が終わっていたことから、出願が特許庁に係属していないことを理由に分割出願が却下されました。それに対する処分取消訴訟です。

取消理由は、①出願が特許庁に係属しているということは要件として条文上に書かれていない、②出願人は特許証を受領するまでは特許権が設定登録された事実を知ることができないので、分割出願不可化の効力発生時期は特許証の受領日でなければならない(これはちょっと無理筋では)ということですが、裁判所は①については「特許出願」と書いてあることは特許庁に係属していることが前提であることは文理上明らか、②については「独自の見解」として認めませんでした。まあ妥当ではあります。

ということで、弁理士としては、特許査定の時は、特許料納付の前に分割出願の意図がないかを出願人に確認するのが大事という当たり前の話になります。

今回の訴訟に至る経緯がよくわかりません(弁理士が分割出願の意思を確認せずに特許料を納付してしまったというパターンはちょっと考えにくいです)が、このような特許庁の手続に関する取消訴訟の判決はどういった事情があるのだろうと想像してしまい、読んでいてドキドキしてしまいます。

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【実務者向け】マドプロ事後指定で区分数にかかわらず料金一定の国について

ちょっと細かい話です。

マドプロ国際登録にロシアを事後指定で追加することになって、どの区分に絞るかを検討していたのですが、よくよく見ると、ロシアは事後指定については個別手数料を徴収していないので、区分数にかかわらず料金は固定(基本料金300CHF+ロシアの指定分100CHF)なのですね。したがって、事後指定の際に区分数を絞るのはあまり意味がないことがわかりました。

ただし、国際登録の更新の際には区分数が増えると更新料金が増えてしまうので、不要な区分は更新前に削除しておくことが必要です。この場合、マドプロ国際登録では、日本の登録商標のように、一部の区分だけ更新するということができないので、更新の前に区分の削除(限定要求)を完了しておく必要があります(関連過去記事)。

事後指定の料金が区分数にかかわらず一定の国はロシア以外にも結構ありました。メジャーな国としては、ドイツ、フランス、スペイン、ポルトガル、オーストリア等があります。区分数が多い国際登録において、これらの国をMM2で指定しないで国際登録された後に事後指定すれば料金を節約できることになります。出願日が繰り下がってしまうのであまりやらないとは思いますが。

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ChatGPTは弁理士業務に使えるか?

今さら言うまでもないですがChatGPT凄すぎますよね。文法の知識もなく、構文解析もせず、ルールベースがあるわけでもないのに、統計的処理だけで、あれほど知的(に見える)回答を返してくれるのは脅威です。真の破壊的テクノロジと言えると思います。あまりにも便利なのでChatGPT plus(月額20ドル)を契約してみました。言語モデルをGPT4に設定できるので、さらに正確性が高まります。

たとえば、GPT3.5に「栗原潔について教えてください」と質問すると以下の回答が返ってきました。

栗原潔(くりはら きよし)は、日本の小説家、推理作家です。1948年に福岡県に生まれ、京都大学文学部卒業後、出版社勤務を経て、1980年に『踊る神殿』でデビューしました。

栗原潔の作品は、主に推理小説や歴史小説が中心で、特に江戸時代を舞台にした作品が多いです。代表作には『鞍馬天狗』シリーズや『京都桜京極殺人事件』シリーズがあります。また、多くの作品で京都を舞台にしており、京都の風景や文化を緻密に描写した作品が多く、京都愛が感じられます。

栗原潔は、日本推理作家協会会員や日本文芸家協会会員などの資格を持ち、多くの文学賞を受賞しています。また、テレビドラマや映画の原作も手がけており、作品は幅広い世代から愛されています。

何一つとして合ってないですねw このように大規模言語モデルが学習データに含まれていない情報を勝手にでっち上げてしまう現象を”hallucination”と呼ぶそうです。人間の「妄想」と同じように、言語モデルはこれが間違った情報であることに気付かず、あたかも事実のように堂々と回答してきます。

同じ質問をGPT4にすると、まともな回答が返ってきました。

栗原潔(Kiyoshi Kurihara)についての情報が限られており、著名な人物としての情報が不足しています。もしご質問が特定の職業や分野における栗原潔を指している場合、具体的な情報をお知らせいただければ、関連する情報を提供できるかもしれません。それとも別の栗原潔について情報が必要でしょうか?もしそうでしたら、どのような分野や背景の栗原潔について知りたいかお教えいただけると助かります。

しかし、GPT4にしたからと言って「妄想」の問題がすべて解決するわけではありません。たとえば、GPT4に”What are imporant patents on the large languge model?”と聞いてみました。そうすると「As an AI language model, I cannot provide a real-time or comprehensive list of patents related to large language models.」と前置きしつついくつか特許の例を挙げてくれました。たとえば、以下です。

1. Word2Vec (Google) – US Patent No. 9,467,859, titled “Efficient Estimation of Word Representations in Vector Space,” filed in 2013 by Tomas Mikolov, Ilya Sutskever, and others at Google, describes the process of training distributed word vector representations using neural networks. Word2Vec was a key milestone in the development of modern NLP techniques.

いかにも正しそうな情報ですが、このような特許はありません(この番号は全然別の特許です)。同じタイトルの出願すらありません(同じタイトルの論文ならあります)。適当な情報をでっち上げてもっともらしく回答しているだけです。ChatGPTはあくまでアシスタントとして使い、知識のある人がチェックすればよいという考え方もありますが、番号や日付をちょっと間違えているくらいならまだしもまったく存在しない情報を「ありました」と自信満々で回答するアシスタントというのもどんなものかと思います

ということで、現時点でChatGPTを特許調査等に使用するのはあまりにも危険だと思います。一方、たとえば、文章をわかりやすく直す、記事の見出しを作る、訴求するコピー文を作るといった文章表現に関する仕事ではきわめて有能です。特に英語関連の仕事ですと、ノンネイティブである自分には表現のニュアンスがわかりにくいのでとても助かります。弊所の英語サイトの文章表現、全部添削してもらいました。

また、試しに、私がYahoo! Newsに書いた記事「氏名を含む商標が登録できない問題を解決する商標法改正案について」の本文を読ませて、タイトルを付けてもらいました。結果は、

「商標法改正で氏名を含む商標登録問題が解決へ! ファッション業界も救われる?」

です。すごくないですか?この問題がファッション業界において特に問題になっていたことがちゃんと反映されています。「解決へ」「救われる?」と断定を避けつつ、読者の関心を呼ぶタイトルになっていると思います。

ということで、大雑把に言うと、ChatGPTは「ファクト」に関する仕事には使いにくいが、「表現」に関する仕事ではきわめて有能ということかと思います。

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